日本公衆衛生学会へようこそ
日本公衆衛生学会第17期理事長に前期に引き続き選任され、就任のご挨拶をさせていただきます。
前期の2019年11月~2021年11月は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、世界の公衆衛生の状況は一変した時期でした。わが国も例外ではなく、会員の皆さんをはじめ、多くの保健、医療、福祉分野の方々が、それぞれの立場で対応を迫られ、活動されてこられたことと存じ、その尽力に改めで敬意を表したいと存じます。こうした公衆衛生の激動の時代において、本学会活動が今後とも注目されることから、会員の皆様とともに、本学会の活動の充実と発展に寄与いたしたいと存じます。
本学会は1951年の発足から70年目という節目を迎え、現在会員が9000人を超え、社会医学分野での最大規模の学会となりました。本学会のミッションは、わが国の公衆衛生の向上・増進に寄与する科学的エビデンスの創出と、それに基づく公衆衛生活動の実践・評価と政策への提言、そして、それらを通じた人材育成です。
わが国は、世界一の少子超高齢化を反映し、他の国では経験のない様々な健康問題やそれらに対処するための保健・医療・介護・福祉の制度の諸課題に対峙しています。それゆえ、今後高齢化が急速に進むアジア・アフリカ諸国等での問題をいわば先取りをしており、その対応には諸外国から大きな注目が注がれています。
生活習慣病、がん、老年病、感染症の蔓延、大規模災害等による短期・中長期的な健康問題、たばこ、アルコール、薬物による健康障害、高齢者や児童の虐待問題、自殺等の精神保健問題、社会のサポート機能の低下など、解決すべき健康問題は多岐にわたります。こうした状況下で、本学会は、学術的にも社会的にも、そして国際的にも、より重要な役割を担うことが期待されます。
今期の学会活動の柱を下記に示します。2017年法人化の定着が達成できたことを踏まえて、公衆衛生専門家制度、他の研修・認証制度、国際化、公衆衛生研究の促進のさらなる充実を進めます。1)公衆衛生人材育成の強化と会員の拡大、2)関連学会との連携・協働の強化、3)政策への提言・要望、4)国際化対応、5)公衆衛生研究の促進
1)公衆衛生人材育成の強化と会員の拡大
少子超高齢化が進むわが国にとって、子どもから高齢者までのすべての世代における健康増進、疾病や健康障害の予防、医療、福祉の改革と充実が求められている中、公衆衛生人材の育成と確保は最重要課題です。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機としてその課題が広く表出されました。2009年に本学会で開始した公衆衛生専門家制度の充実、2017年開始の社会医学系専門医制度の参画と充実、保健師、管理栄養士、薬剤師等の多職種の研修・認定制度の支援、若手の会の活動、メルマガ、e-ラーニングの充実を進めます。これらの活動により、さらなる会員数増加を目指します。
2)関連学会との連携・協働の強化
本学会の大きな特徴は、公衆衛生に関わる多職種の集合体であることです。会員は、医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、保健師・助産師・看護師、臨床検査技師、診療放射線技師、管理栄養士、理学療法士・作業療法士、歯科衛生士・歯科技工士、養護教諭、疫学・保健統計・健康教育系・人文社会科学系等の教育・研究者、行政の実務家などです。会員の多くはそれぞれの関連学会・団体に所属していることから、学会総会等での共催セミナーや研修会を通じて、また提言・要望との発出の際に、関連学会・団体(学術会議、日本医学会連合、全国衛生学公衆衛生学教育協議会等)との連携・協働を強化してゆきます。
3)政策への提言・要望
公衆衛生分野の政策に関して、科学的エビデンスに基づいた提言をタイムリーに行うことは本学会の重要な使命です。前期においてHPにいち早く「新型コロナウイルス関連情報特設サイト」を設け、感染症対策についての声明、感染症法改正議論に関する声明や種々の報告・情報提供を行ってきました。また、ライフコースに関わるビックデータ活用のため、NDB・介護DBと人口動態統計の連結に関する要望書を国に提出しました。今後とも、より長期的な健康問題への対応、少子超高齢化にまつわる様々な健康問題への対応に関して、公衆衛生モニタリング委員会や公衆衛生専門家を初めとする会員の皆様のご協力のもと、関連学会・団体(学術会議、日本医学会連合等)と連携して、提言・要望を行ってゆく所存です。
4)国際化対応
世界のトップスラスの長寿国である日本において、それを支えてきた医療保険制度、保健所・地域保健制度、健診(検診)制度、各種の保健医療介護福祉政策は、特に今後少子高齢化が急速に進む東アジアやアフリカ諸国において注目されています。本学会は公衆衛生に関する科学的エビデンスや実践活動の情報提供を積極的に行ってゆくことが強く求められています。海外からの視察・研修の受け入れに関しては、国の所轄部門と保健医療科学院、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター、国立医薬品食品衛生研究所、都道府県の所轄部門と保健所、地方衛生研究所等が対応されていますが、本学会としても、関係団体と連携しあるいは学会活動を通じて、世界に発信することが求められます。HPとメルマガの2か国語(日英)化、日本公衆衛生雑誌の英文論文重要な提言の英文化、学会総会の海外参加者のトラベルグラント(国際参加賞)、英語発表のセッションと若手会員の参画、学部生や若手の会員活動の支援を今後とも進めてゆきます。
5)公衆衛生研究の促進
公衆衛生研究は、公衆衛生の向上・増進に関する様々な分野を包含し、予防の範疇として一次予防、二次予防、三次予防、研究の焦点としては、観察研究、要因研究、介入研究、保健医療介護福祉に亘るヘルスサービス研究、経済評価研究、政策研究等、多岐にわたります。公衆衛生研究の発展はそれぞれの分野での発展に依存しますが、その基礎となる疫学・医学統計学の知識・技術のレベルアップや、各分野の研究トピックに関する情報提供は、公衆衛生全体の学問的発展に寄与するものと考えます。そのため、他の関連学会、学術会議、全国衛生公衆衛生学教育協議会、全国公衆衛生関連学協会連絡協議会、社会医学系専門医協会、都道府県衛生主管部局等とも連携しながら、学会会員、公衆衛生専門家、社会医学系専門医等の研修、e-ラーニング、メルマガの充実を進めます。また、若手や中堅の研究者・実務家のインセンテイブの向上のため、学会総会での優秀演題賞、学会誌の優秀論文賞、学会奨励賞、学会誌論文の査読賞等の顕彰制度のさらなる充実を進めます。
会員の皆様、学会活動へのご参加、ご支援、ご助言を、何卒よろしくお願い申し上げます。
2021年11月吉日
日本公衆衛生学理事長
国立国際医療研究センター グローバルヘルス政策研究センター
センター長 磯 博康